映画ポップコーンの評価
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監督、キャストとも無名でありながら、アカデミー賞で作品賞など4部門でノミネートされた「第9地区」。 この映画「第9地区」は、人によってはB級SFコメディー、他の人には気味の悪いグロテスクなホラー、私にとってはSFに名を借りた"政治寓話"なのです。 エイリアンを「難民」として描いた異色のSF映画で、その設定の妙が光っている。 受賞こそならなかったが、独創性なら、その年の作品賞に輝いた「ハート・ロッカー」に勝るとも劣らないと思う。 巨大な宇宙船が南アフリカのヨハネスブルクの上空に停止した。中にいた異形の宇宙人は衰えきって、戦うどころじゃない。 宇宙人は地上に移され、隔離されたコロニーに閉じ込められた。そして、その状態が20年も続き、宇宙人の強制退去が開始される。 宇宙船は「インデペンデンス・デイ」にそっくりだし、巨大化した虫のような宇宙人は「エイリアン」の末裔。 でもこの宇宙人、この映画では姿形は薄気味悪くても、中身はアメリカ先住民のように力なき民なのです。 この後は、強制退去の先頭に立った主人公が、ふとした偶然からエイリアンに変身して人類に立ち向かうことになるのです。 古くは、アーサー・ペン監督の「小さな巨人」、最近だと「アバター」でお馴染みの展開になるのです。 この映画は、先住民を追い払う先頭に立ったはずの主人公が、先住民とともに戦う「アバター」の親戚みたいなものだ。 「アバター」のパンドラ星は美しかったし、ナヴィ族だって慣れてみると結構、綺麗だったんですが、パンドラ星を巨大なスラムに、ナヴィ族を「エイリアン」のグロテスクな化け物に入れ替えると、この映画になると思うのです。 もちろんこれは、一見、B級SFコメディーのように見えますが、舞台が南アフリカなので、かつての"アパルトヘイト"を念頭に置いて、人種差別や移民迫害を、このように被差別者をエイリアンに置き換えて、痛烈に諷刺した社会派映画なのだ。 言葉も姿も異なる人たちには、ある種の恐怖を抱くのが普通ですが、普通の感情で暮らすなら、他者の排除に終わってしまいます。 そんな事やって大丈夫なのという思いが欧米圏では切迫しているので、この「第9地区」がアカデミー賞の候補にもなったのだと思う。 助けられ、難民として隔離された彼らは、野蛮で不潔な「下級住民」として、人類から蔑視されるようになる。 果たして人類とエイリアンは共存できるのか? ------。 物語は後半、ある事件をきっかけにエイリアンと人類の戦いに発展する。 そして、ニール・ブロムカンプ監督は、ニュースやインタビューの映像を織り込んで、ドキュメンタリータッチに仕上げている。 おかげで、突拍子もない物語が、不思議と臨場感にあふれ、手に汗握る場面も多くあり、ラストシーンにはほろりとさせられた。 何だかつかみどころのない感じもするけれど、作り手たちの発想力に素直に脱帽させられた。 SFはSFでも、「スターシップ・トゥルーパーズ」のような、メイン・ストリームから外れたところで、私が偏愛するカルト映画の貴重な1本になったのです。
このレビューにはネタバレが含まれています
公開当初からタイトルは知っていたが、正直B 級のようなイメージが先行して中々観る気にならなかったのが正直なところ。しかし、他に気になる作品も無かったので、重い腰を上げて観てみると、これが意外に冒頭から他のSF対策と違った切り口で次の展開が気になり飽きずに最後まで楽しく鑑賞できました。 第九地区とは、地球に来た大勢の宇宙人が燃料や食料不足により、宇宙船の中で弱っているところを人間が南アフリカの一角に第九地区として設けて隔離するところから始まる。 この設定が素晴らしく、新しくもあり面白い。 キャラクターも良く、宇宙人にも宇宙人の家族がいるところを観ると人間とは、改めて宇宙人の1人であり、進化の過程なのかと感じさせられた。 また、主人公の役者さんが見事にハマっており、配役の違和感などは全くなく、全体の仕上がり重視の作品であることも良かった。 1つ気になったのは冒頭の主人公に対するフラグが立ち過ぎて、人によっては展開が読めて予想通りになってしまうところくらいか。 それでも全体として十分楽しめる作品でした。
「第9地区」はニール・ブロムカンプの監督デビュー作だ。 ある日突然、巨大宇宙船が現われ、そのまま空の上にとどまってしまう、 という設定は、オールドSFファンにとってはそれだけでわくわくしてしまう 何かがある。もちろんアーサー・C・クラークの「幼年期の終わり」からの 引用ということなのだろうが、あれが世界各国の首都上空だったのに対し、 こちらは南アフリカ・ヨハネスブルグの上空と限定されており、 しかも難民として漂着し、20年そこに浮かび続けているというところが面白い。 宇宙人たちは皆弱っていたので地上に下して一定の地区に隔離し、 そこを「第9地区」と呼ぶことにするが、トラブルが増えたため、 宇宙人を「第10地区」へ移送することが決定され、主人公のヴィカスが その陣頭指揮を任されることになる。これを、宇宙人に対し、 人間の法の基に手続きを進めていく様はなかなか間が抜けていて面白く、 ここまでは政治的なテーマを抱えた寓話的世界観を描いた映画なのかと思っていた。 ところがここから思いもよらぬ方向へと物語が進んでいく。 まず、そもそも訳の分からない設定がいくつかあり、 例えば、宇宙人は猫のエサが好き(何故?)だとか、宇宙人の持っている武器は、 宇宙人しか使えないというか、遺伝子に反応して作用する(どういう理屈?)だとか、 宇宙船の液体燃料を吸い込むと体が異星人化していく(は?)など、 非常に荒唐無稽な決め事が存在しているのだが、それらの驚くべきエピソードを 突き付けられて頭が混乱している中、物語は何でもアリのカオス的な展開を 見せるのかと思いきや、非論理で構築された論理とでも言おうか、 この世界の中の独特の論理性は崩さず備えたまま怒涛の如く 結末を迎えていくのであって、その語り口が実に見事なのだ。 前半、宇宙人に対し無理矢理人間の法律を押し付ける様子と対比して見ていくと とても面白い。こちら側の論理であちら側の世界を動かそうとしていたものが、 途中からあちら側の論理に巻き込まれていく。 これはある意味不条理劇とも呼べるかもしれない。 自分がこの映画で好きなところは、一見雑然としていて勢いだけで押していくように見えて、 その実きちんと練られた物語であるということと、主人公が置かれた かわいそうな状況の中に、妙なおかしさが同居しているところだ。 例えばヴィカスは液体燃料の噴射を受け、体が異星人化していく、 研究材料として莫大な価値があるとした政府は彼の体を切り刻もうとする、 そこで彼の妻には、彼は仕事の過程で異星人のメスとデキてしまった、 としてもう彼は帰らない、と説明するところや、また、体を元通りにするため、 異星人の協力を仰ぎ、彼らがもとの星に戻る手助けをするものの、 体を治す薬(?)を持ってくるまでに3年かかる、と言われるあたりは 突っ込みがいのあるエピソードで妙にツボに入った。
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