ジョーカー:フォリ・ア・ドゥの町山智浩さんの解説レビュー
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映画評論家の町山智浩さんがTBSラジオ『こねくと』(https://www.tbsradio.jp/cnt/)で、『ジョーカー:フォリ・ア・ドゥ』のネタバレなし解説を紹介されていましたので書き起こしします。
映画視聴前の前情報として、また、映画を見た後の解説や考察レビューとして是非ご参考ください。
町山さん『ジョーカー:フォリ・ア・ドゥ』解説レビューの概要
①全米で大変な賛否両論を呼んでいる問題作
②○○○○○に出てくるピエロの姿の無差別テロリストがジョーカー
③前作「ジョーカー」ではジョーカー誕生の過程が描かれた
④ジョーカー信者がたくさん増え、世界各国で無差別な暴力事件を起こした
⑤アーサーが逮捕されて法廷に出て、彼に責任があるのか世の中のせいなのかという事を裁くというまさに前作を裁く続編
⑥フォリ・ア・ドゥはフランス語。精神病の言葉で1人の狂気の妄想が他の人に伝染していく事を意味している
⑦レディガガ演じるのはジョーカー以上にどうかしてる人
※○○の中に入る文章は、この記事の1番最後で公開しています。
TBSラジオたまむすびでラジオ音源を聞いて頂くか、書き起こし全文をご覧頂くか、この記事の1番最後を見て頂く事で判明します。
町山さん『ジョーカー:フォリ・ア・ドゥ』の評価とは
(石山蓮華)そして今日は?町山さん。
(町山智浩)今日はですね、ちょっと音楽から聞いてもらった方がいいかな。はい。レディガガの”That’s Entertainment” 。
〜音楽〜
(町山智浩)はい。この音楽聞いてどう思います?
(石山蓮華)なんかショーが始まる?
(でか美ちゃん)もうねすごいウキウキとした華やかな世界の。イメージですよ。
(町山智浩)はい。そうですその通りです。これはThat’s Entertainmentっていう、これが娯楽だっていうタイトルで これはまぁあの1950年代のミュージカル映画が全盛期の時にですね、バンドワゴンというMGMのミュージカルで歌われた歌なんですけれども、歌詞はですね、例えば悲しい時でも、おかしい事でも、怖い事、例えばもう悪党とかが人を殺すような事ですら、実は娯楽になるんだっていう歌なんですよ。
(でか美ちゃん)は〜。
(町山智浩)なんでもエンターテイメントになるのよと。それはステージでミュージカルしちゃばいいの、それは怖い事でも、悲しい事でも。何故ならば、この世の中は実はステージだから。全てがエンターテイメントなのっていう歌なんですけど、これはミュージカルをやろうよって誘う時に使われる歌なんですね。そのバンドワゴンて映画の中では。ただそれを今回このジョーカーという非常に恐ろしい映画の続編で1つのテーマとして使っています。
今日紹介する映画は『ジョーカー:フォリ・ア・ドゥ』というタイトルの映画で、今全米で大変な賛否両論を呼んでいる問題作です。
全米で大変な賛否両論を呼んでいる問題作の映画
(でか美ちゃん)へー!!賛否両論なんですね。
(町山智浩)賛否両論です。もう大論争になってます。この映画を認めるか認めないかみたいな感じ。
(石山蓮華)そんなんなんですか。
(でか美ちゃん)そうか作品の出来の良し悪しじゃなくて内容で賛否なんですね。
(町山智浩)色んな意味でですね。はい。
この映画、1作目は『ジョーカー』ていう映画で、バットマンに出てくるピエロの姿をした、何でもジョークにする・・なんていうか無差別テロリストがジョーカーなんですが、それを主人公にした映画で2019年に公開されて、世界工業収入なんと10億ドル。1500億円というまぁ信じられない額の大ヒットになりまして、非常に貧乏で孤独な青年・・青年でも中年男のホアキン・フェニックスが、いじめられて本当屈辱のどん底の中で、ジョーカーという怪物に変わっていく姿を描いて演じて、アカデミー主演男優賞に輝きました。
(石山蓮華)素晴らしかったですよ、お芝居。
(でか美ちゃん)私も見ました。
(町山智浩)はい。どうでした?
(でか美ちゃん)いやすごい作品だったし、これなんだろうな、見た人が結構、自分だってこのジョーカーになる可能性があるんだっていう思いを、こうなんか自分の中の種みたいなのを見つけちゃう作品だなと思ったんですけど、自分ももちろんそうだったんだけど、私の場合は、そのなんだろうな。言い方がすごく難しいんですけど、誰にでもそういう貧困とかになる孤独になる可能性ある上で、真っ当に働いて、周りの人を大事にしてたら、あんまりそこまでは転がり落ちないと思うんですよ。実際はね。でも、そういう人が身近にいた時にどうするかっていう風に考えちゃいました私の場合は。
(町山智浩)あぁそうですね。このジョーカー、主人公はホアキン・フェニックスはですね、アーサーという本名なんですが、もうどこにも頼る所がないんですね。
誰にも頼れなくて、ただ妄想の中で恋愛をして、という風になっていくんですけども、まぁ結局最後どうしようもなくて、人を次々と殺していく事になります。自分をいじめた人達をね。非常に今でか美ちゃんが言ったみたいに危険なのは、この映画の中でそのジョーカが殺人をする事によって、ジョーカー信者がたくさん増えてくんですね。
ジョーカー信者がたくさん増えた
(でか美ちゃん)いやでもあれはなんか増えちゃう作品ですよね。
(石山蓮華)本当にやっぱり作品としての力がありますよね。
(町山智浩)で映画の中でジョーカー信者がどんどん増えてってジョーカーの姿をして無差別な破壊行為とか殺人をしていくんですけども、映画の外側でも起こってしまいましたね。
(石山蓮華)ありましたね。
(町山智浩)はい。ジョーカーの姿をした人達が日本とか世界各国でジョーカーの真似をしてですね、無差別な暴力事件を起こすという事が起りました。だから大ヒットはしたんですが非常に問題がある映画で。この続編は、そのジョーカーという1作目を裁く映画なんですよ。同じ監督のトッド・フィリップス自ら、それを裁判で裁くという内容になっています。
(石山蓮華)えぇこれは見なきゃですね。
前作を裁く続編
(町山智浩)はい。具体的にはですね、そのアーサーが逮捕されて、法廷に出てですね。彼に責任があるのか、それとも世の中のせいなのかという事を裁くというまさに、すごい前作を裁く続編です。で、タイトルの”フォリ・ア・ドゥ”というのはフランス語なんですけれども、これは精神病の言葉でですね、1人の狂気の妄想が、他の人に伝染していく事を意味してます。だからこのジョーカー信者がワッと暴れてくっていうのはこの映画の中でも2作目でも、その裁判の法廷の周りをジョーカーの姿をしたジョーカー信者が取り囲んで、ジョーカーを応援するって事にもなってて、それも意味してますけど”フォリ・ア・ドゥ”は。もう1つはですね、今回レディガガが出まして、さっき歌ってた。レディガガがジョーカーの恋人を演じるんですよ。
(でか美ちゃん)すごいキャスティングというかね、びっくりしました。見た時。
(町山智浩)すごいキャスティングです。(笑)ジョーカーの妄想を共有してくんですね。で”フォリ・ア・ドゥ”なんですけれども、これは彼女が演じる役は、その今まで色んな映画でジョーカーの恋人だったですね、ハーレークインというキャラクターが生まれるえ過程を今回もやってるんですけれども。ハーレー クインっていうのは本来はね、他の映画では、ジョーカーが精神病院に入ってるところにカウンセラーとしてきた精神科医が、ジョーカーのカウンセリングをしてるうちに逆にジョーカーによって、狂気に引きずりこまれた人なんですよ。で、彼女の中に屈してたものをジョーカーが見い出してですね、そこを拡大してハーレークインという怪物にしちゃっ たっていうのが本来の話なんですね。でも今回はちょっと違う話になって、レディガガ演じるのはジョーカー以上にどうかしてる人なんですよ。(笑)
レディガガ演じるのはジョーカー以上にどうかしてる人
(石山蓮華)うわぁそれ、すっごい気になる。なんかジョーカーの1作目を見た時に女性は悪者になれないのかなって思ったんですよ。そこがこの人で進むのかと思うとちょっとドキドキしますね。
(町山智浩)今回ちょっとね、例えばレディガが歌う、”Get Happy”ていう曲をちょっと聞いて欲しいんですけど。
(町山智浩)この歌はね、もうすぐ最後の審判の日が来るんだから、みんな歌って踊って騒ぎましょうよっていうね、なんかどうかしてる歌詞なんですよ。
(でか美ちゃん)もうどうでもいいわいって事ですよね。
(町山智浩)そうなんです。もちろん最後の審判ってのこの世の終わりも意味してるんですが、この映画の中では彼、そのジョーカーに、裁判で審判がくだるって事も意味してるんですね。で今回ね、その歌がみんな1950年代のスタンダードナンバーとかジャズとかミュージカルの、誰でも知ってるヒット曲。あとシャンソンも 出てきますけども。が出てくるんですけど、全部その歌詞がストーリーを説明してるんですよ。全部意味があってラブソングとかも出てきますけども、全てそのセリフの代わりにこの歌を歌うっていう風な展開になってますね。もう1つ大きいのは、その法廷でやっぱり裁判をしてる最中に、ジョーカーは元々妄想癖のある人なんで、次々と妄想していくと、そこでレディガガと一緒に2人で歌って踊り出すわけですよ。だから法廷ミュージカルなんですね。ところが法廷ミュージカルっていうジャンルは実はあるんですよ。
(でか美ちゃん)あるんですね。
法廷ミュージカルというジャンルがある
(町山智浩)有名な映画で『シカゴ』ですね。
アカデミー賞も取ってますけど、これはその殺人を犯して、裁判にかけられたミュージカル女優になりたかった女性が、法廷にかけられて自分がすごくマスコミに囲まれてね。もう大変な、なんというかスターになっちゃったような気で、法廷とミュージカルが訳わかんなくなっちゃうっていう映画が『シカゴ』だったんですね。証言したり、するのを全部ミュージカルで歌って踊ってやるんですけど、裁判所なんだけどミュージカルのステージみたいになっちゃってんですよ。それが『シカゴ』で、もう1つの方は『ダンサー・イン・ザ・ダーク』って映画なんですけど、ご覧になってます?
(石山蓮華)見ました!
(町山智浩)これは無実の罪を着せられてしまった貧しい女性が、どんどんどんどん不幸に追い込まれていく、で裁判になるんですね殺人剤で。ところが、その中で彼女はものすごい地獄のようなどん底の中で、歌ってミュージカルが大好きなんで、歌って踊るミュージカルを妄想するんですよね。で、辛くなればなるほど、どんどん妄想してくんですよ。あれがしんどいんだよな〜見てて。
(でか美ちゃん)
(石山蓮華)もう最後の最後まで・・素晴らしい歌なんですよねまたね、ビョークがね。
(町山智浩)そうなんです。で本当に楽しく歌って踊るんですけど、はっと妄想から覚めると地獄のような現実の中にいるんですけど。
(石山蓮華)あぁもうなんか思い出してもつらくなる。
(でか美ちゃん)ねぇ、そう。思い出してもキュンとなる。
(石山蓮華)なんか連れてかれちゃったりするんですよね。あぁビョーク。
(町山智浩)今回の『ジョーカー:フォリ・ア・ドゥ』も全くそういう映画なんですよ。でちょっともう1曲聞いていただきたいんですけど、ホアキン・フェニックスが歌う「For Once in my Life」
(町山智浩)これはね、スティービー・ワンダーが作った歌なんですけど、僕は人生で生まれて初めて僕を人としてくれる人に会ったんだよって歌なんですよ。
ジョーカーはずっとみんなにいじめられてね、恋人もなしでね。誰も友達はいなくて本当の。どん底にいたんですけど、そこレディガガがやって来た訳ですよ。
あなたのファンですって来た訳ですよ。それで、今まで人生がどん底で、それこそ彼は死刑になっても別に構わないと思ってた人なんですけども、初めて自分を愛してくれる人がいたんでこの歌を歌うんですよ。聞いてくれる?僕の事を好きだって言ってくれる人が現れたんだよー!って歌うんですよ。あれだけもう世の中なんか全部めちゃくちゃになっちゃえと思ってたジョーカーが変わっていくんです、この映画の中で。
(でか美ちゃん)いや、でも、どうなんだろう。このタイミングで変わるのが、幸せなのか。
(町山智浩)そうですよね。
(石山蓮華)起こした事は戻せないですからね。
(でか美ちゃん)戻せないし、裁判は進んでいく訳で。
(町山智浩)そうなんですよ。うわーっていう感じなんですよ。今希望与えられてもマズイだろうみたいなとこもあるんですけど。で、まぁそういう映画で、ラブストーリーでもある訳ですよね。法廷物で、ミュージカルでラブストーリーで、でも主人公は完全なめちゃくちゃな殺人犯ですよ。 ところが法廷の周りを囲んでるのは、ジョーカーにもっとひどい、世の中をめちゃくちゃにする事を求めてる信者達なんですよ。ジョーカーが愛されて幸せになる事よりも、ジョーカーがこれよりももっと世の中をめちゃくちゃにする事を望んでる人達が、取り囲んでるんですよジョーカーの周りを。
で、その中でジョーカーは葛藤するんですけど、例えばちょっと次の曲聞いていただけますか。「The Joker」
(町山智浩)ジョーカーが、俺はジョーカーだって歌いながら、気に食わないやつをもう皆殺しにするシーンにかかる曲をかけてほしかったんですよ。
(でか美ちゃん)あの階段を踊りながら降りるシーンのとこでかかってる曲ですかね?前作。
(町山智浩)あれじゃなくて、今回かかってた曲で、ちょっと違う曲なんですけど。
(でか美ちゃん)失礼しました。
(町山智浩)それがすごいんですけど、結構みんなの期待通りのシーンもあります。みんなって誰だよ。(笑)ジョーカー信者のね。ただ、こういうみんなの期待に対して監督はどう思ってるか。て事なんですよ。
(石山蓮華)だって本当にその1本の映画で、世界をこう悪い方に変えてしまったっていう事を映画が 引き受けられるのかどうかっていうのはすごいテーマですね。
(町山智浩)これはね、トフィリプス監督は僕何度も会った事あるんですけど、本質的には真面目な人で、やっぱりねこういう映画でそれこそ莫大な億万長者になっちゃった訳ですから。そういう事に対して非常に真正面から向き合ってるんですね。なおかつ彼は本当にこの彼が作り上げたそのアーサーという男を愛してるんですよ。それに対して非常に真面目に彼が落とし前をつけようとした映画がこの『ジョーカー:フォリ・ア・ドゥ』なんですけれども。でね今かかってる曲がね、「True Love Will Find You in The End」という歌で、ちょっと今かけていただけますか。
(町山智浩)これがね、ホアキン・フェニックスが切々と歌う歌で使われてるんですけ、この歌はね、あのダニエル・ジョンストンというえシンガーソングライターが作った歌なんですけれども、このダニエル・ジョンストンという人はまさにそのアーサー、ジョーカーと同じく精神に障害があって非常に孤独で貧困の中で生きて、死んでいったシンガソングライターなんですね。ただ彼はそんな状況にあっても、最後まで人を愛したり人に優しくする事を歌い続けたんです。素朴に。彼は本当に孤独で、それこそ誰にも愛されないで生きてきた訳ですけど、でもこの歌は辛いだろうけども、いつかは真実の愛が君を見つけてくれるはずさって歌なんですよ。
(でか美ちゃん)わぁ、言い聞かせてたのかもしれないですよね。
(町山智浩)自分に言い聞かせてたんですよ。ダニエル・ジョンストンは。その歌を最後に持ってきてる所でですね、非常にその監督のメッセージがはっきりしてると思うんですね。世の中に愛されなかったり孤独だったり貧乏だったり不幸で何も、何もないと思う、あとはもうジョーカーみたいな事をしてめちゃくちゃにするしかないと思ってる人達もいっぱいいて、そういう人達が映画をヒットさせたり、実際にその映画に影響されたんですけど。でもその人達に対して最後にホアキン・フェニックスと監督が、でもね、愛を信じてみようよって歌いかけてるんですよ。というね、まぁこれも本当賛否両論なんですけど、もう監督自身が俺を裁けと。この映画を裁けっていう事で作った映画なんで、皆さん是非見ていただいて、それぞれの審判を下していただきたいなと。思います。
(でか美ちゃん)すごい覚悟ですよね。
(石山蓮華)そうですね。これは是非劇場で見たいですね。音楽映画でもありますし。今日は今週金曜日に公開される映画、『ジョーカー:フォリ・ア・ドゥ』をご紹介いただきました。町山さん ありがとうございました。
(町山智浩)どうもでした。
※書き起こし終わり
○○に入る言葉のこたえ
②バットマンに出てくるピエロの姿の無差別テロリストがジョーカー