マ・レイニーのブラックボトム & あの夜、マイアミで & ユダ&ブラック・メシア 裏切りの代償の町山智浩さんの解説レビュー
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マ・レイニーのブラックボトム2020年12月18日 上映 / アメリカ / 94分
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あの夜、マイアミで2021年1月25日 上映 / アメリカ / 114分
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ユダ&ブラック・メシア 裏切りの代償2020年 / アメリカ / 125分
映画評論家の町山智浩さんがTBSラジオ『たまむすび』(https://www.tbsradio.jp/tama954/)
で、2021年アカデミー賞にノミネートされている『マ・レイニーのブラックボトム』『あの夜、マイアミで』『ジューダス・アンド・ザ・ブラック・メサイア』のネタバレなし解説を紹介されていましたので書き起こしします。
映画視聴前の前情報として、また、映画を見た後の解説や考察レビューとして是非ご参考ください。
町山さん『マ・レイニーのブラックボトム』『あの夜、マイアミで』『ジューダス・アンド・ザ・ブラック・メサイア』解説レビューの概要
・アカデミー賞にノミネートされた、アメリカの黒人を題材にした3本
・この3本の映画は実話で、ある順番で見ていくと時系列的に繋がっていく。
・時系列は、『マ・レイニーのブラックボトム』→『あの夜、マイアミで』→『ジューダス・アンド・ザ・ブラック・メサイア』の順。
・『マ・レイニーのブラックボトム』は黒人の音楽を白人が聞いていなかった時代。
・ブラックボトムの意味とは○○○○○
・ガンで亡くなったチャドウィック・ボーズマンの遺作
・ブルースをノリノリにして、リズム&ブルースにする事で白人にも売れる曲を作ろうとする話
・『あの夜、マイアミで』は、モハメド・アリが世界チャンピオンになった後の打ち上げをした時の話
・『マ・レイニーのブラックボトム』から37年後の話
・黒人解放運動のマルコムXが参加していた
・黒人の音楽を大ヒットさせたサム・クックも参加
・NFLのスーパースター、ジム・ブラウンも参加。
・マルコムXもサム・クックも後に○○○てしまう。その背景を知らないとサスペンスがわからない。
・『ジューダス・アンド・ザ・ブラック・メサイア』は『あの夜、マイアミで』から5年後の1969年の話。
・歌やスポーツで黒人差別に対抗しようと言っていた時代から、暴力で対抗するしかないという時代に。
・リーダーはわずか21歳のフレッド・ハンプトン
・フレッド・ハンプトンのすごさを表す名セリフが、「○○○○○」
※○○の中に入る文章は、この記事の1番最後で公開しています。
TBSラジオたまむすびでラジオ音源を聞いて頂くか、書き起こし全文をご覧頂くか、この記事の1番最後を見て頂く事で判明します。
『マ・レイニーのブラックボトム』『あの夜、マイアミで』『ジューダス・アンド・ザ・ブラック・メサイア』町山さんの解説とは
(赤江珠緒)
もしもーし!町山さーん!
(山里亮太)
もしもーし!
(町山智浩)
はい!町山ですー。よろしくお願いしまーす。
(赤江珠緒)&(山里亮太)
お願いしまーす!
(町山智浩)
どもー。もうねぇ、アメリカは今ワクチンが毎日250万以上、接種・・。
(赤江珠緒)
なんかどんどん加速してますね。
(町山智浩)
はい。どんどん加速しています。だからアカデミー賞もですね、僕すごく心配だったんですけど、ちゃんと会場でやる事になりました!
(赤江珠緒)
ですってね!
ワクチン接種が進み、アカデミー賞が無事会場で開催される事に
(町山智浩)
はい。ただ、50%にしなきゃなんないんで、2つの会場を借りて同時にやるっていう感じになりました。
(山里亮太)
はーーーなるほど!
(町山智浩)
はい。で、ちゃんとレッドカーペットでドレス着て。ていうのもやるそうです。
(赤江珠緒)
え〜〜〜あぁ、そうですか!
(山里亮太)
エンタメが徐々にね?復活してくる感じが。
(町山智浩)
そうなんですよ。でね、アカデミー賞のノミネート作品が発表されたんですが、先週。この『たまむすび』で紹介した映画がかなり入ってます!
『ノマドランド』『ミナリ』『シカゴ7裁判』『サウンド・オブ・メタル 聞こえるということ』。
アカデミー賞にノミネートされた黒人の実話を3本紹介
(町山智浩)
そういった作品が、ズラッと並んでるですけれども、今日はですね、このアカデミー賞にノミネートされた作品の中からですね、3本。
アメリカの黒人ですね、その、アフリカ系アメリカ人の歴史的な実話を描いた3本の映画をちょっとまとめて紹介したいんですよ。
(山里亮太)
はい!
(町山智浩)
というのはね、これね、3本、実際にあった話なんですけど、それをある順番で見ていくと、現在に繋がっていく映画になってるんですね。
(赤江珠緒)
うん!
(町山智浩)
バラバラに作られてるんですけど、1の歴史的文脈があるので、それに従ってちょっと話をしたいんですね。
(赤江珠緒)
はい!
『マ・レイニーのブラックボトム』
(町山智浩)
で、まず最初は1920年代を舞台にした映画で、『マ・レイニーのブラックボトム』という映画です。
これはですね、1927年が舞台なんですけども、この頃まだ、黒人の音楽を白人が聞いてなかった時代の話ですね。
マ・レイニーという人は実在の人物なんです。”ブルースの母”と言われている人なんですね。はい。
で、この頃のブルースというのは黒人しか聞いてなくて。で、南部の方の・・今かかっているのかな?
(赤江珠緒)
はい。かかっています。
〜音楽〜
ブラックボトムとは
(町山智浩)
はい。これですね。
「ブラックボトム」っていうのはどういう意味かっていうと、2つ意味があるんですが、あるシカゴのある地域の名前で、そこで始まったダンスの形でもあるんですけど、もうひとつは「黒いおしり」っていう意味なんですね。
で、まぁ黒人の女性のシンガーとダンサーがおしりをプリプリさせながら。(笑)踊るんですけど。
(赤江珠緒)
ほぉ〜。
(町山智浩)
で、この頃はまだ、その南部の貧しい黒人達が住んでる所を回って、テントで回って、それを見せるという形でしかブルースというのはまだ聞かれていなかった時代なんですよ。
(赤江珠緒)
ふ〜〜ん。
(町山智浩)
で、このレコーディングをするって事で、レコードがね、だんだん売れてきたんで。で、この頃レイス・レコードと言って黒人相手だけに売るレコードを白人が作っていたんですよ。
(赤江珠緒)
へぇそうだったんだ・・!うん。
レコーディングをした1日について描かれた映画
(町山智浩)
お金を稼ごうとして。で、そのレコーディングをした1日の話なんですね、このマ・レイニーさんが。
で、これはアカデミー賞では主演女優賞候補にあがってます!このヴィオラ・デイヴィスさんて人、この人はね、もうアカデミー賞を2つ取っているんで。(笑)
『ヘルプ〜心がつなぐストーリー〜』で主演女優賞。で、『フェンス』で助演女優賞という、もう大ベテランなんですけど、彼女がこのマ・レイニーというブルースの母をですね、巨体の人なんで、特殊メイクで体重増やして。演じています。
ただこの映画はですね、マ・レイニーという人がタイトルになってるので、その人が主役なのかと思っちゃうんですけど、実は本当の主役は違うんですよ。
主役はマ・レイニーではなく、チャドウィック・ボーズマン
このレコーディングに参加するこのバンドのメンバーのトランペッターが主役なんですね、実際は。でそのトランペットを演じるのはチャドウィック・ボーズマンという俳優さんで、この人はあのマーベルヒーローの『ブラックパンサー』の王子様を演じてた人です。
(赤江珠緒)
あぁ・・あの、亡くなっ・・た方ですよね?
(町山智浩)
亡くなった方です、この間ガンで。はい。
で、この方の・・チャドウィック・ボーズマンの遺作になるんですね、この『マ・レイニーのブラックボトム』は。
(赤江珠緒)
あぁ、そうなんだ・・。
(町山智浩)
はい。で、彼もアカデミー主演男優賞候補に挙がってます。
(赤江珠緒)
あ、へぇ〜〜!
ブルースと言いながら、ゆっくりな曲調
(町山智浩)
で、たぶん取ると言われてます。大本命です。はい。
というのはね、ものすごい演技なんですよ。その彼が。っていうのは、さっき、今聞いてもらってわかったと思うんですけど、すごくブルースと言いながら、ゆっくりじゃないですか。
(赤江珠緒)
ちょっと牧歌的な感じがしましたねぇ。
(町山智浩)
牧歌的ですよね?それに、もっとガンガン、リズムを入れていおくよ!っていう人なんですよ、このトランペッターは。
で、ブルースにリズムを入れていくと何になるかっていうと、リズム&ブルース、R&Bになるんですよ。
(赤江珠緒)
あぁ!そっかそっか!
(町山智浩)
で、その事を言い出した男として出てくるんですね。実在の人物ではないんですけども。
で、どうしてそんな事をするんだって言うと、そうやってノリノリになれば、白人にも売れるじゃないかって言うんですね。
(赤江珠緒)
んーー!うんうん!!
音楽的方向性
(町山智浩)
一気にものすごい・・黒人っていうのは人口が12パーセントしかいないので、白人に売れたらものすごいセールスになるだろうって言うんですよ。
そう言うと、マ・レイニーさんは、「私の歌って言うのは・・ブルースっていうのは、黒人の悲しみとか、つらさとか、そういった事から出てきてるから。それは白人向けのノリノリの音楽にはしたくないよ。」って言われちゃうんですよ。
(赤江珠緒)
あーーー・・音楽的方向性が違うと。
(町山智浩)
違うんですよ。で、「黒人の魂は売れない」って言われると、そのトランペッターが、
「いや、そんな事はわかっている。」と。「俺は母親を白人にレイプされて、父親を白人に殺されて、自分も白人にリンチされたんだ。」と。「俺が白人に音楽を売るっていうのは、復讐のためなんだ。」って言うんですよ。それで売れて大成功したいんだって言うんですけれども、その2人の対立を描いているのが、この『マ・レイニーのブラックボトム』なんですね。
で、これがその次に紹介する映画に実は繋がってくるんですよ実は。この次に紹介する映画は・・
あ、そうだ、『マ・レイニーのブラックボトム』という映画は、もうすでにNetflixで配信中で見れます。もう日本でも。
(赤江珠緒)
あ、そうですか、はい。
『あの夜、マイアミで』
(町山智浩)
で、その次の映画というのはですね、『あの夜、マイアミで』という映画なんですね。
これも、Amazon Primeで日本でもう見れます。これは、その『マ・レイニーのブラックボトム』から37年後の1964年の2月25日の1日を描いた映画なんですよ。
(赤江珠緒)
あ、そんなピンポイントなんですね。
(町山智浩)
ピンポイントなんです。この日いったい何があったかというと、後にモハメド・アリという名前になるですね、ボクサーのカシアス・クレイが世界チャンピオンになった日なんですよ。
(山里亮太)
ほお!
(赤江珠緒)
で、その時マイアミで試合があって、世界チャンピオンになった後、みんなで打ち上げをした時の話なんですね。
(山里亮太)
へぇー!
モハメド・アリが世界チャンピオンになった後、打ち上げをした時の話
(町山智浩)
で、これは実話なんですけども、そこに、モハメド・アリ・・要は後にモハメド・アリに改名するんですが、その友達が3人来てたんですね。その3人っていうのは1人は、マルコムXという人です。
(赤江珠緒)
あぁ、黒人解放運動の。
(町山智浩)
そうです!黒人解放運動家のマルコムXが来ていて、で彼は、ブラックムスリムという黒人解放を主張するイスラム系の団体の精神的なリーダーで。アジテーターで。それで、モハメド・アリという名前に、カシアス・クレイを改名させようとしてるんです。この時に。
(赤江珠緒)
ふんふん。
(町山智浩)
で、他に集まったのはサム・クックという歌手なんです。あ、今かかっていますね。
〜音楽〜
白人にもヒットする音楽を作り大成功しているサム・クック
(町山智浩)
はい。これはサム・クックという人の『Wonderful World』という歌なんですけど、サム・クックはですね、”ミスター・ソウル”って言われてたんですよ。
さっき、ブルースの話をした時に「黒人のソウルは売れない」って言ってたんですけど、彼は売って大成功してるんですよ。
で、白人にも売れて・・というかもう、全世界で売れて、人種を超えてその黒人の音楽を大ヒットさせてる人なんですね。ここで繋がってくるんですよ、前の映画から。はい。
(赤江珠緒)
そうか・・37年後には・・。
(町山智浩)
ただ彼は、今聞いた曲『Wonderful World』では「この世界は素晴らしい」っていう非常にポジティブな歌を歌ってて。
ブルースの悲しみとか、黒人の差別されてきた歴史とかはその中にあんまり出してなかったんですね。
(山里亮太)
あれっ・・。
(町山智浩)
で、もう1人、大物が出てくるんですけど、その人はジム・ブラウンという人です。
この人はNFLのスーパースターなんですよ、フットボールの。で次々と記録を破ってですね、やはりその白人にとってのスターにもなったんですね、当時。
で、この、なんていうか人種を超えたスーパースターが1ヶ所に集まって、何をしたかは謎なんですよ、実は。わからないんですよ、ホテルの部屋にいたので。それを想像して物語にしたのが『あの夜、マイアミで』という、この映画なんですね。
で、会話画ですね・・こういう会話なんですよ。マルコムXがこう言うんですよ。「君達はスーパースターで、白人どころが世界中の人がみんな君達のファンだ。」と。
「だったらその力を黒人の平等のために使ってくれないか?」って言うんですよ。
(赤江珠緒)
はー・・。うんうん。
黒人の平等のために
(町山智浩)
ね。で、「このカシアス・クレイくんはイスラム教に入って、これから私のために色々やってくれるんだ。」と。
「彼みたいなスーパースターが、”差別はいけない”とか言ったら、それはみんなに響くだろう。」と。「世界中に届くだろう。」と。
(赤江珠緒)
そりゃ影響力あるな。
(町山智浩)
そうなんですよ。「君達もやってくれないかね?」って言うんですよ。
(赤江珠緒)
ほうほう。
サム・クックは反対していた
(町山智浩)
で、そのサム・クックに対してですね、そういう事を言うと、サム・クックは「いや、俺はそういう事をやる事によって、聞き手が限られちゃうから。今、これだけ売れてるんだから」みたいな事を言って、いいじゃないかみたいな事を言うんですよ。
このへんは想像の会話なんですけれども、それに対してマルコムXは、「今はそういう時代じゃないんだ。」と。「これからは政治的な事を歌う事が大ヒットに繋がってくるんだよ。」っていう風に言うんですよ。
で、これは確かにその通りで、もうビートルズが出てきている時代ですから!
で、ボブ・ディランも出てきて、みんなガンガン政治的な事を歌い出す頃なんですね。「だからそれを歌っても全然大ヒットに繋がるから。」っていう風な事を言って説得すると。
それで今度はジム・ブラウンに対して「君もね、フットボールっていうのは一生懸命頑張っても、結局オーナーみんな白人で。」その頃白人ばっかりなんですよオーナーは。「白人のために働かされる奴隷と同じだね」みたいな話をするんですけど、「だから白人と戦えないか?」って言うとジム・ブラウンは、「いや俺、女だったら白人でもいいからな。」とか言うんですよ。(笑)
(山里亮太)
あらまぁ!
ジム・ブラウンは女好き
(町山智浩)
このジム・ブラウンっていう人は女好きでめちゃくちゃ有名な人なんですね。(笑)
(赤江珠緒)
あぁそうなんですね!実際に!?ふ〜ん。
(町山智浩)
はい。で、色んなトラブルも起こしてる人なんですけど、だからあんまりノリが良くないんですよ。
それで、マルコムXが焦っていくっていう話なんですけど。これは、背景がですね、1964年という時代なんですが、この頃マーティン・ルーサー・キング・ジュニア牧師が、南部における人種差別、人種隔離と、南部における黒人の選挙権が剥奪されてる状態を改善しようとして戦ってた真っ最中の、まさにその時の年なんですよ、1964年っていうのは。
前に『たまむすび』でも紹介したかもしれないんですけれど、この後ですね・・このマイアミの夜の後キング牧師は行進をしてですね、血だらけになりながら、選挙権を勝ち取るんですけどもね。
で、ところがルーサー・キング牧師は、もう殴られても蹴られても絶対無抵抗を貫いたんですね。無抵抗と非暴力だったんですけども、マルコムXはね、この人は短気だった・・というかですね、「もう我慢できない!」と。 「これだけ殴られたり蹴られたりしてて、なんで耐えなきゃいけないんだ?」と。
(赤江珠緒)
まぁそういう心理になるよなぁ。
「平等を達成するためだったら、どんな手段でも取ろうじゃないか!」
(町山智浩)
ねぇ。だから「平等を達成するためだったら、どんな手段でも取ろうじゃないか!」って言い始めて。
(赤江珠緒)
おぉ、ちょっと過激になってきた・・!うん。。
(町山智浩)
はい。「いざとなったら、武器でも持つしかないんじゃないか」と。というような事を言い始めている頃なんですね。
「ただ、君達にはスポーツという武器があるだろう?音楽という武器があるだろう?」ね。「それを黒人のために使ってくれよ!」っていう一夜の話なんですよ。
(赤江珠緒)
へぇ〜。でもこれ、すごくね、重要な日だったんだっていうのは・・またこれだけの人が集まってっていうのはわかるんですけど、映画としては・・。この一夜だけを映画にしていくというはこれ、難しくないですか?
元々は舞台劇だった
(町山智浩)
一夜だけなんで、あの、これ元々は舞台劇なんですよ。で、さっきの『マ・レイニー』も実は舞台劇で、レコーディングした日だけの映画なんですね。だからまぁそれはお芝居になっているんで、見れるんですけども。
(赤江珠緒)
あ、そうなんですね。
マルコムXが焦っている背景
(町山智浩)
ただね、そういった背景がわからないと、なんでこんなに焦ってるんだっていう事がわからないんですよ。
で、マルコムXが1つ焦っているのは、実はその彼が入っていたブラックムスリムという団体の、リーダーが少女達を妊娠させている事を知ってしまって。
(山里亮太)
わぁ・・。
(町山智浩)
そう。まぁだから、一夫多妻みたいな事やってたんですね。それで「こいつらと一緒にやれねーや!」っていう事で、ブラックムスリムの中で、内部批判をやって、それからですね、あとFBIからも狙われてて。常に彼を狙う謎の刺客がウロウロしてる状態になってたんですよ。で、マルコムXは死が近づいている事を知ってたから、一刻も早く平等を達成しなきゃいけないんだって事で、めちゃくちゃ焦ってサム・クックとかを押しまくるという映画になってるんです。
(赤江珠緒)
はぁ・・じゃあやっぱりその、背景を知っていないと・・?
背景を知っていないとサスペンスがわからない
(町山智浩)
そう、サスペンスがわからないんですよ。(笑)
(赤江珠緒)
それがちょっとわからないままだとね。(笑)
(町山智浩)
そう!このあと実はこの人達が殺されてしまうんだって事を知らないと、なんでこの人こんなに焦っているの?っていう感じになっちゃうんですよ。(笑)
でね、非常にこの映画は感動的な・・1つハッピーエンドで終わるんですけど、このハッピーエンドの後にも実は怖い事があって。サム・クックも殺されてしまうんです。
(赤江珠緒)
ええーーーっ!?サム・クックも?
歴史的背景を知ってこそ楽しめる映画
(町山智浩)
はい。で、マルコムXも殺されてしまうんですよ。だから、映画ってすごく・・前に『この世界の片隅に』の話をした時に、広島に原爆が落ちる事を知らないと何のサスペンスもわかないよっていう話したんですけど。(笑)
やっぱり歴史的背景ってものを知らないと・・前『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』っていう映画の時も、シャロン・テートという人がこの後が殺されるっていう事を知らないと何の映画だかわからないっていう話をしたんですが、それがあるんですよね。
(赤江珠緒)
うーん。そうですね。
(町山智浩)
で、マルコムXも殺されてしまって、その後、マーティン・ルーサー・キング・ジュニア牧師も殺されてしまんですよ、暗殺されて。
(赤江珠緒)
そうですよねぇ。。そうねぇ。。
(町山智浩)
で、そこで繋がってくるのが3本目の映画なんですね?はい。
あ、それで、さっきの『あの夜、マイアミで』はサム・クック役の人がアカデミー助演男優賞候補の本命です。
『ジューダス・アンド・ザ・ブラック・メサイア』
(町山智浩)
で、3本目の映画が『ジューダス・アンド・ザ・ブラック・メサイア』という映画なんですが、これ日本語タイトルがまだついてないんでこんなタイトルですが、これ、「ジューダス(Judas)」っていうのはキリストを売った男、ユダの事です。で、「ブラック・メサイア(Black Messiah)」って言うのは「黒い救世主」という意味で、これはですね、アカデミー賞の助演男優賞候補にこの両方の2人の人が。このジューダス役の人とブラック・メサイア役の人が両方にノミネートされてますけども。
これは、そのマーティン・ルーサー・キング・ジュニア牧師が殺された後、黒人達がもう怒り狂って、これは暴力で対抗するしかないんだ、白人達には!って事で、ブラックパンサーという過激派組織が、どんどん台頭していった時代。を描いてます、1969年です。で、もう既にその黒人過激派と警察やFBIが銃撃戦を絶えずしているという状態になっています。だから、繋がっているんですよ、この3本は。
(赤江珠緒)
ねぇ。さっきが1964年ですもんね。
暴力で対抗するしかない
(町山智浩)
そうなんです。で、さっきは「無抵抗で歌やスポーツで戦おう」って言っていたのに、もうこの段階だと銃を持って撃ち合いをしているんですよ。で、この主人公がですね、フレッド・ハンプトンというブラックパンサーのシカゴ支部のですね、わずか21歳のリーダーなんです。
で、彼が天才的な演説の能力を持っていて、それをFBIが恐れて、彼をなんとか殺そうとするっていう話なんですよ。
(山里亮太)
うぇぇぇ!!
(赤江珠緒)
21歳で天才的な演説!
フレッド・ハンプトン
(町山智浩)
はい。これすごいのはね、その貧しい黒人達が警察に弾圧されて苦しんでたり、仕事がなかったりすると。そういった問題を解決しなきゃいけないんだと。で、彼がですね、すごく対立している貧しい白人達。がいるんですね。ヒルビリーって言われてる、南部から来た白人達が労働者としてシカゴで働いているんですが、彼らと手を結ぼうとするんですよ。あとヒスパニック。メキシコ系の人達とも手を結んで、人種を超えた、貧しい若者達の抵抗組織を結成するんですね。
(赤江珠緒)
ふーん!
どれだけフレッド・ハンプトンがすごかったかを表す名セリフ
(町山智浩)
で、それを「虹色同盟(The Rainbow Coalition)」っていうんですが、それでどんどん、組織を拡大していくんですよ。そうすると、FBIは「これは危険だ!」って事になるんですよ。「こいつの能力はすごすぎる!」と。で、どのくらいそのフレッド・ハンプトンがすごかったかって言うと、この中にセリフで出てくるんですけど、「フレッド・ハンプトン。あいつは、ナメクジに塩だって売れるぜ!」って言うんですよ。
(赤江珠緒)
うわっ!すごい!(笑)だってナメクジって、塩は絶対に。ねぇ。嫌なものなのにねぇ。(笑)
(山里亮太)
それぐらい説得力があるっていう。(笑)
「ユダ」となる刺客
(町山智浩)
それでFBIは、オニールというですね、チンピラを捕まえて。車泥棒だったんですけども。で、「フレッド・ハンプトンの部下になれば罪を消してあげるから、スパイとしてブラックパンサーに潜入しろ。」って言うんですよ。だから彼が「ユダ」なんですよ。
(赤江珠緒)
はいはい!
(山里亮太)
なるほど!
(町山智浩)
で、フレッド・ハンプトンの暗殺に近づいていくという話なんですね。
(赤江珠緒)
うわぁ〜〜〜。
なんとナンバー2に。
(町山智浩)
で、最初そのチンピラのオニールは、ただ罪を軽くしてもらって、しかもお金ももらえるからっていう事でブラックパンサーに入るんですけども、そのフレッド・ハンプトンの人柄にどんどん惚れていっちゃうんですよ。
で、彼の言っている「黒人のために戦わなきゃ!」という事にも非常にまぁ共感しまして。で、一生懸命ブラックパンサーの中で働くうちにですね、ナンバー2になってしまってくんですよ。
(赤江珠緒)
すごい出世している!(笑)
(町山智浩)
出世して、ブラックパンサーを警察から守るための保安隊の隊長になっちゃうんですよ。
(赤江珠緒)
ん!えーー!!
(町山智浩)
本当は警察に襲撃をさせるためのスパイなのに。で、彼の葛藤を描いているのがこの『ジューダス・アンド・ザ・ブラック・メサイア』なんですね。
(赤江珠緒)
うーーわーっ!
(山里亮太)
えっ、面白そう・・!
この3本の映画は、現在にも繋がっていく
(町山智浩)
というね、この3本はまぁ、すごい映画で。で『ジューダス・アンド・ザ・ブラック・メサイア』の方は作品賞候補にもなっています。
はい。で、なぜこれが今作られたのかっていうと、やっぱり現在に繋がってくるんですよ。今、そのBlack Lives Matterの運動で警官による黒人の殺害が問題になって、去年はまぁ、一種の暴動にまで発展しましたけども。それはこの頃から繋がってくるんだっていう映画なんですね。
で、ちょうど、あのミネソタでですね、黒人男性(ジョージ・フロイドさん)に乗っかって窒息死させた警察官の裁判が今始まるんですよ。
(赤江珠緒)
あぁ、そうなんですね。
(町山智浩)
で、アカデミー賞の頃に判決が出そうなんですよ。
(赤江珠緒)
うわぁ〜〜。
(町山智浩)
もう、これは運命が導いてるとしか思えないですね。で今はね、もう時間がないですけど・・アジア系に対するね暴力事件がアメリカで頻発してるんですよ。
(赤江珠緒)
えーー!コロナも関係してですか?
アジア系に対する暴力事件も頻発
(町山智浩)
もう差別と・・殺人事件も起こりました、アトランタで。何人も殺されて。「コロナは中国ウイルスだ。」とか「武漢ウイルスだ。」とかトランプ大統領が言ったせいで、「コロナでこんなに苦しいのはアジア人のせいだ!」って事言って、中国人だろうと韓国人だろうと日本人だろうと片っ端から襲ってるんですよね、人々が。
で大問題になってるんですが、それで今みんな戦ってて、黒人の人達も共闘するって形になってるんですよ、Black Lives Matterの人達も。はい。
だから本当に今め、ものすごくタイムリーなのがこの3本なので、ぜひご覧になっていただきたいんですが。『ジューダス・アンド・ザ・ブラック・メサイア』は日本公開がまだ未定です。
(赤江珠緒)
わ〜〜未定なんですね・・!
『マ・レイニーのブラックボトム』はNetflixで配信中、『あの夜、マイアミで』はAmazon Primeビデオで見られますと。
えぇ、最後のも見たいですね。
(山里亮太)
ねぇ、続きで見たいもんね。
(町山智浩)
ぜひ公開してほしいです!
(赤江珠緒)
わかりました!町山さん、ありがとうございました。
(山里亮太)
ありしたーっ!
(町山智浩)
どもでした!
※書き起こし終わり
○○に入る言葉のこたえ
・ブラックボトムの意味とは「黒いおしり」
・マルコムXもサム・クックも後に殺されてしまう。その背景を知らないとサスペンスがわからない。
・フレッド・ハンプトンのすごさを表す名セリフが、「あいつは、ナメクジに塩だって売れるぜ!」