聖なるイチジクの種の町山智浩さんの解説レビュー
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映画評論家の町山智浩さんがTBSラジオ『こねくと』(https://www.tbsradio.jp/cnt/)で、『聖なるイチジクの種』のネタバレなし解説を紹介されていましたので書き起こしします。
映画視聴前の前情報として、また、映画を見た後の解説や考察レビューとして是非ご参考ください。
町山さん『聖なるイチジクの種』解説レビューの概要
①アカデミー賞にノミネートされているイラン映画
②イランに暮らす裕福な家族
③お父さんの職業は○○判決を出す判事
④実際に2022年にあった反ヒジャブ運動
⑤この映画はすべて○○○○で撮影された
⑥監督は逮捕前に国外に脱出、俳優達も撮影後に脱出した
※○○の中に入る文章は、この記事の1番最後で公開しています。
TBSラジオたまむすびでラジオ音源を聞いて頂くか、書き起こし全文をご覧頂くか、この記事の1番最後を見て頂く事で判明します。
『聖なるイチジクの種』町山さんの評価
(町山智浩)今日もアカデミー賞にノミネートされてる作品を紹介します。はい。イラン映画ですね。2本ともイランについての映画で、1本目は『聖なるイチジクの種』という映画です。この映画はイランを舞台にしてるんですけど、イランって言うと、イメージがすごく・・今の日本の人にとってはイスラム社会で厳しくてね。そういうとこだという意識があると思うんですが、この映画は全く違って、非常にお金持ちで、高級マンションに住んでいて、すごくリッチな、部屋の中に何でもあってねテレビから何からね。そういう中産階級よりちょっと上ぐらいの豊かな家庭が舞台なんですよ。で、お父さんは公務員でね、給料が良くて、お母さんはもっと広い家に住みたいわとか言ってるんですよ。娘が2人いるんでそれぞれの子供達2人の部屋がそれぞれに必要だわとかね。あとは、手がね、食器洗うと荒れちゃうから食器洗い機も欲しいわとか言ってるのがお母さんね。で、そういう豊かなね。娘さんはね長女が大学生でね次女は高校生で、大学行ってるっていうこと自体やっぱりお金もある訳ですよ。
アカデミー賞ノミネートのイラン映画
(町山智浩)ただね、イランのお金持ちのお父さん、毎日ヘトヘトになってボロボロになって家に帰ってくるんですよ。いっつもつらそうにしてるんですよ。それで奥さんが、あなた大丈夫?って聞くと、今日もたくさんの学生達に死刑判決をしちゃったんだって。このお父さんの仕事はね、イランの革命裁判所という所の判事なんですね。イランはね1979年にイスラム革命というのが起きて、イスラム共和国になったんですが。さっきあの、日本やアメリカは、国の主権者が国民だって言ったじゃないですか。国民1人1人だと。でもイランの主権は人ではなくて神にあるんですよ。
(でか美ちゃん)すごい概念的な話だなぁと思っちゃいますよね。
お父さんの職業は死刑判決を出す判事
(町山智浩)ね。いねーよっていうね。その場にいないんだから少なくとも。何もできない訳ですよ。イスラムはちゃんとした律法というものがあるんで、その下に法律とか法務とか国家を置いてるんですね。イスラム教が1番トップにあるんですだから。神様は地面に降りてこられないので。で、この体制は民主主義体制とかとは違って”神権体制”と言うんですね。神が主権を持っている国なんですよ。で、革命裁判所はそれに従って、国民を裁くとこなんですけど、このお父さん勤めてるところがね。ただ、彼がやってる事はほとんど思想犯の取り締まりなんですよ。イラン政府とかイラン政府高官とか指導者に反対する、デモをしたり、そういう物を印刷したり、語ったりした人達を取り締まるんですけど。裁判所というのは名ばかりでですね、基本的には判事が一方的に判決を下すだけです。
(でか美ちゃん)うーん。
(町山智浩)だからこのお父さんがやってる事は、死刑、死刑、死刑って言ってるんですよずっと。
(でか美ちゃん)そうですよね、さっきの冒頭のね、今日も死刑にしちゃったって一言、そんなに出るもんじゃないだろうと思ったんですよね。
(町山智浩)ありえないですよ普通。
(でか美ちゃん)そのレベルで出さざるをえないという事ですもんね。
(石山蓮華)未来のある若者達をたくさん?と思って結構びっくりしたんですけど。
(町山智浩)そうなんです。すごく豊かなで給料をもらってね、いい生活してるから、その引き換えにひどい仕事をしてるんですけど、でも死刑にする学生達って自分の娘と同じぐらいの歳なんでね。だからやっぱりメンタルをやられちゃってるんですよ、このお父さんは。
(石山蓮華)そうでしょうね。
(町山智浩)しかもね、この仕事ってね、他の人に言えないんです。っていうのは死刑にされた人達の遺族とかから恨まれるから。
(石山蓮華)そうでしょうね。
実際に2022年にあった反ヒジャブ運動
(町山智浩)近所付き合いができなくなっちゃうんですよ。すごい数殺してますんで。で、コソコソしてすごくつらい生活を送っているのがこのお父さんなんですけど。でこの家庭にね、大学生の娘がね血みどろの女友達を連れて帰ってくるんですよ。お父さんがいない時に。で、その女友達は顔ちっちゃい穴がいっぱいあいてるんですよ。これ警察官にショットガンで撃たれて。直径1ミリか2ミリぐらいのちっちゃい散弾が顔中に食い込んでるんですよ。で、これは長女の行ってる大学で反政府デモがあって、そこで巻き込まれちゃったんですね彼女は。これはね、実際に2022年にあった反ヒジャブ運動の事なんですよ。これね、1979年のイスラム革命以降ね、イランの法律では女性は必ずヒジャブというその髪とか首とかを隠す布を被らなきゃならないんですね。で、被ってるかどうかをパトロールしてチェックする人達がいるんですよ。それを道徳警察といいます。彼らが実は1人のですね・・2022年の9月16日に22歳の女性のマフサ・アミニさんという人に、その道徳警察が、そのヒジャブの付け方だと髪が見えてると言って逮捕しようとして、で彼女が抵抗したんでまぁそこで警棒で殴ったんですね。で、それで死亡するんですよマフサ・アミニさんは。
で、最初は心不全で自然死だっていう風に警察は主張したんですけど、顔に打撲傷が残ってたし、あと多くの人がね、殴打するところを目撃したりしてるんですね。でね、やっぱりねイランもね、スマホ社会なんですよ。ものすごい数でそう事があると、スマホで撮影されてるんですよ周りの人達。この映画ね、そこからねスマホ映像がものすごくたくさん引用されます。で全て本物です。
(でか美ちゃん)わ〜そうなんですか。
(町山智浩)ヒジャブをつけてる女性を警察官が殴ったりね、してる映像がどんどん出てくるんですけど、これね、どうやってるんだろうと思ったら、映画の中で説明があって。VPNっていうのをかませてイランの外のサーバーに送ってるんですよみんな。だからそれを見るのもイランの国内では見れないんで、外のサーバーに入ってそういう告発映像を見るという形らしいです。で、そこからまぁひどい事件だったんで反対運動を起こしてですね、デモが始まるんですよ。ところがその中で警察は武力でそれを鎮圧しようとして、500人ぐらい抗議活動をした学生達が殺されちゃうんですね。
(石山蓮華)すごい数ですね。
(町山智浩)それがこの映画の背景なんですけど。聞いてると、どうやってその映画を撮ったの?って思いません?
(石山蓮華)だってその国内での、反政府運動とか色々な活動に対する目線がものすごく厳しい中で、それに疑問を呈する映画って撮れなさそうですよね。
(でか美ちゃん)ね。
(町山智浩)撮れないですよ。
(石山蓮華)どうやって。。海外で撮るって事ですか?
(町山智浩)全部隠し撮りなんです。
この映画はすべて隠し撮りで撮影された
(でか美ちゃん)えーそんな事が可能なんだ。
(町山智浩)そうなんです。これ『聖なるイチジクの種』という映画は、室内がほとんどなんです、その家庭で。だからまず室内でしかほとんど撮らないだけで済むようにというシナリオにしてるんですよ。で家族しか出てこないから、でそれ以外のところは本当に隠し撮りしてます。街中のシーンもあるんですけど。
(石山蓮華)俳優さん達はどうするんですか・・?
(町山智浩)俳優さん達もそれに出てる事は秘密で、密かに撮影してたんですけど、途中でこの監督はですね、モハマド・ラスロフ監督という人なんですけど、がとうとう警察が迫ってきてですね、2時間以内に逮捕する。ていう事態になったんですよ。で、そのまま逮捕されるかどうするかで迷って・・映画撮影中なんですよまだ。
彼はものすごい勢いで車で飛び出して、トルコとの国境の荒野に出て、そこから歩いてですね、国外に脱出しました。で、撮影中だからね。この後も撮影を続けたんですよ、スタッフやキャストは。
(石山蓮華)えっ!
(でか美ちゃん)でもスタッフやキャストは、そのやっぱ圧力かかんないんですか?
(町山智浩)撮ってた事はその時はまだわかってなかった。
(でか美ちゃん)あ、監督だけばれちゃっていてっていう事か。
(町山智浩)監督だけ逃げて。監督はその前でもすごく撮ってたんで、反政府的な作品をね。
(でか美ちゃん)目つけられているような状態だった・・。
(町山智浩)そうなんですよ、何度も逮捕されてるんですよ。で、もうこれは最後だって事で脱出して、というか映画がそこで途切れるよりは、脱出して海外からインターネットで演出をし続けました。
(石山蓮華)すごい話だ。
監督は逮捕前に国外に脱出、俳優達も撮影後に脱出した
(町山智浩)今ほら、Zoomとか色々ありますから。海外からカメラとかそういうの指示して、演技とか指示して撮影続けてるんですよこれ。これすごい映画で、イラン映画って最近そういうのばっかりなんですけど。で完成して、海外の映画祭に出したんですね、さっきカンヌに出したって言ったんですけど。で、その時に、なんとか出演者達を脱出させています。
(でか美ちゃん)あーなんだろうな、全部そこまで責任持ってというか。
(町山智浩)そうなんですよ。
(石山蓮華)でもその俳優達にも家族がいるんですよね。
(町山智浩)家族も一緒みたいですね。その娘さんの俳優さん達は家族と一緒に脱出したみたいですけどね。
(でか美ちゃん)そもそもやっぱ出演を決める時点で、結構覚悟されてるって事ですよねじゃぁ。
(町山智浩)覚悟してるんですよ。ただお母さん役の女優さんは捕まっちゃった。脱出しそこなったんです。で、こういう大変な状況で撮影された映画がこの『聖なるイチジクの種』という映画なんですが、まずそのデモ隊に巻き込まれた散弾で撃たれた子を助けなきゃならないっていうあたりから、この家族がどんどん、家族同士で対立していく事になるんですね。たとえばお母さんは、この豊かな生活を守りたいから娘達に反政府運動とかにかかわっちゃダメよ!ダメよ!って言ってるんですよ。すごい保守的な人なんですけど、これ演じている女優さんは実は反ヒジャブ運動をやってた人です。
だけど、保守的で反政府運動をやらないお母さんという役を演じています。で、このヒジャブ運動がすごく拡大したんで、革命裁判所は判事達に身を守れって言って拳銃を支給するんですよ。で、お父さんは拳銃を持って家に帰って、ベッドサイドの引き出しに入れておいたら翌朝なくなっちゃうんですよ。これは大変だと。これは国から支給された銃だから。これが盗まれたとなったらって事で、今度は家族事態を疑って革命裁判所が追い詰めていくんですよ。
しかもこの家族、お父さんが革命裁判所にいる事を秘密にしてるって言ったんですけど、それは反政府派の人達に狙われるからですが、それも流出します。
(でか美ちゃん)あぁもう味方がいないようなね、状況だ。
(町山智浩)そうなんです。この家族4人が徹底的に追い詰められて大変なところまで追い込まれていくというねサスペンス映画ですねこれね。ものすごいね政治的な話なんですけど、サスペンス映画としてはよくできてるんですよ。
でね、もう1本実はイランを舞台にしたっていうか、イランについての映画があって、これもね再来週公開されるんですけど。それねイラン映画なんですけど『TATAMI』っていうタイトルなんですよ。
※書き起こし終わり
○○に入る言葉のこたえ
③お父さんの職業は死刑判決を出す判事
⑤この映画はすべて隠し撮りで撮影された