ウエスト・サイド・ストーリーの町山智浩さんの解説レビュー
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映画評論家の町山智浩さんがTBSラジオ『たまむすび』(https://www.tbsradio.jp/tama954/)で、『ウエスト・サイド・ストーリー』のネタバレなし解説を紹介されていましたので書き起こしします。
映画視聴前の前情報として、また、映画を見た後の解説や考察レビューとして是非ご参考ください。
町山さん『ウエスト・サイド・ストーリー』解説レビューの概要
①名画『ウエスト・サイド物語』から約60年後の今、巨匠スティーブン・スピルバーグ監督がリメイク
②ウエスト・サイド物語について
③『ウエスト・サイド物語』は原作はシェイクスピア『ロミオとジュリエット』
④ウエスト・サイド物語のあらすじ
⑤マイケル・ジャクソンや石原慎太郎にも影響を与えた
⑥「Beat it!」は「○○○○」という意味
⑦ウエスト・サイド物語は世界初?の○○○○ミュージカルだった
⑧なぜ今、ウエスト・サイド物語をリメイクしたのか
⑨ウエスト・サイド物語の完璧じゃない部分
※○○の中に入る文章は、この記事の1番最後で公開しています。
TBSラジオたまむすびでラジオ音源を聞いて頂くか、書き起こし全文をご覧頂くか、この記事の1番最後を見て頂く事で判明します。
『ウエスト・サイド・ストーリー』町山さんの評価とは
(町山智浩)で、今日はですね。映画を紹介しますが、『ウエスト・サイド・ストーリー』という映画を紹介しまーす。
(山里亮太)おお〜!
(町山智浩)『ウエスト・サイド物語』と言うね映画が1961年にありまして。
まぁアカデミー賞取りまくった名画の中の名画なんですけれども、それをですね、もう何年経ってんだ?60年ぐらい経って、巨匠スティーブン・スピルバーグ監督が今回リメイクしたんですよ。それが『ウエスト・サイド・ストーリー』なんですけども。これは『ウエスト・サイド物語』っていう元の方はご覧になってますか?
(山里亮太)聞いてはいたんですけど・・見てないんですよ。
(赤江珠緒)見た覚えないんですよね。デニムでパーッと足を上げてるとかね、ギャング同士が・・。
(山里亮太)そう、ぶつかりながら、歌いながらね。
(赤江珠緒)抗争してるとか、そういうパーツパーツでしか見てないんじゃないかな?
ウエスト・サイド物語について
(町山智浩)そうそうそう。あのね、もう本当に知らない人でも何となく知ってるっていうのが名作ですよね。で、この映画ね、もう本当に元々、ブロードウェイで1957年に作られたミュージカルなんですけど、それをまぁ61年に映画化して、これね、アメリカの映画史とそのミュージカル史にとってものすごく重要な作品なんですね。これ以前とこれ以後は全く違う世界になっちゃったんですよどっちも。
(赤江珠緒)革命的!うん。
(町山智浩)革命的だったんですけど、それを何故スピルバーグが今、もう1回映画化しなきゃならなかったのかと言うお話をしますが。ザッと説明しますと『ウエスト・サイド物語』って言うのは元々、原作はシェイクスピアなんです。
(赤江珠緒)うん。
(町山智浩)『ロミオとジュリエット』なんですよ。
(赤江珠緒)うんうんうん。
(町山智浩)それを1960年ぐらいの、まぁ50年代終わりのニューヨークに置き換えた話なんですけども。これウエスト・サイドっていうのはね、ニューヨークにマンハッタンっていう島があるじゃないですか。それの西の端っこの方なんですけど、その辺はね、なんと言うかヘルズ・キッチンと呼ばれている、青物市場とか魚とかですね、肉とか、そういった食料品の卸がたくさん集まってる所なんですよ、ずっと上の方から。
(山里亮太)はい。
ウエスト・サイド物語のあらすじ
(町山智浩)だからヘルズ・キッチンって言うんですけど、地獄の台所って言われてるんですけど。まぁ、はっきり言うと、なんて言うんですかね、難しいんですけど、労働者の人達の街なんですね。お金持ちじゃなくて。で、そこにある2つの不良グループが。1つはジェッツというグループで、それは基本的に白人ばっかりで。で、もう1つはプエルトリコ系のシャークスっていうグループがあって、それが縄張り争いをしてるんですが、そのジェッツの元リーダーみたいな格のトニーという白人の男の子と、そのシャークスのリーダーの妹のマリアちゃんが、初めて会って一目惚れしてですね恋に落ちて、ところがそのその2つのグループは対立し合うんで、大変な悲劇になっていくという話が『ウエスト・サイド物語』で、まぁ『ロミオとジュリエット』の現代アメリカ版なんですね。
(山里亮太)はい!
(赤江珠緒)そうですね、うん。
(町山智浩)で、この映画がどのくらい色んな物に影響を与えてるかっていうと、1番・・皆さん知ってるかと思うんですけど、マイケル・ジャクソンの歌で『今夜はビート・イット』っていう歌がありますよね?
(山里亮太)はいはい!わかります!
(町山智浩)Just beat it!って歌ですけど、あれは『ウエスト・サイド物語』に捧げられた歌なんですよ。
(山里亮太)あ、へー!
(赤江珠緒)ほぉ〜。。うん。
マイケル・ジャクソンのBeat it!
(町山智浩)”Beat it”って言うのは、『ウエスト・サイド物語』の1番最初に出てくる最初のセリフなんです。
(山里亮太)へぇ〜!
(町山智浩)でね、それはそのシャークスとジェッツが縄張り争いをしていて、ここから出ていけ、俺達の縄張りから出ていけって言う時に「Beat it!」って言うんですね。「Beat it」って言うのは「出ていけ」っていう意味なんですよ。ね。だからそれを使って、そのマイケル・ジャクソンの歌は不良グループ2つが争ってると、争いをやめろって言うような歌になってるんですけど。
(赤江珠緒)あ〜!そうか!
(町山智浩)はい。ただ『今夜はビート・イット』っていう日本語タイトルがおかしいんですよ。
(山里亮太)今夜は出てけ。
(赤江珠緒)なるほど。(笑)今夜はビート・イット、そうですね。
(町山智浩)今夜出てってよ!ってなんか、今夜は帰ってよ!ってねぇ、私そんな都合のいい女じゃないわよ!みたいな違う話になっちゃうんでね。
(赤江珠緒)本当ですね。
(町山智浩)”今夜は”って付くとね。何が今夜はなんだって言うね、よくわからないんですけど。はい。あとね、石ノ森章太郎さんの漫画でアニメにも何度もなっている『サイボーグ009』っていうのはご存知ですか?
(山里亮太)はい!はい!
(赤江珠緒)はい。
石ノ森章太郎さんの『サイボーグ009』も影響を受けている
(町山智浩)あの中でサイボーグ002というサイボーグがいるんですけど、戦闘サイボーグが。彼は元々、ニューヨークのウエスト・サイドで不良だったんですよ。
(赤江珠緒)あぁそういう設定?へぇ〜!
(町山智浩)そういう設定なんです。はい。で名前もジェットって言うんですよ。
(赤江珠緒)あー!
(町山智浩)ジェッツだから。なのでそのぐらいね、色んな細かい物に影響を与えているのが『ウエスト・サイド物語』なんですね。で、何故・・まずねこの『ウエスト・サイド物語』が何故革命的だったかっていう話をしないとなんないんですけど。まずね、世界最初に近いですね、世界最初かな?不良少年ミュージカルだったんですよ。
(赤江珠緒)あっそれまではあんまりなかったんですか?不良少年の。
(山里亮太)初なんだ・・。
ウエスト・サイド物語は世界初?の不良少年ミュージカルだった
(町山智浩)あのね、これたぶんね、もう知らない人が多いと思うんですけど、不良少年ってね、1955年以前は殆ど存在しないんですよ世界で。昔は、子供はすぐに大人になって間がないんです。若者っていう物自体が存在しないんですよ昔は。
(赤江珠緒)うーん!うん。もう働く前、働く後みたいに。
(町山智浩)そうそうそう。学校を出たり、まぁ中学出たら働くのが普通だったので基本的に。その間がなかったんで青春とか若者っていう概念自体が殆どないんですよ昔は。
(赤江珠緒)そうかぁ。
(町山智浩)あるのは金持ちの家だけだったんですよ。普通は働くんですよそのまま。それで、10代でそのまま子供を作っちゃうんで。昔はね。で、それが戦後ですね、第2次大戦後、若者という層が出てきたんで、その人達が子供でも大人でもないんで、世の中に対してうまく参加できないから、不良化してくんですよ。
(赤江珠緒)ふんふん。
(町山智浩)で、それが全世界で起こって彼らが大人に対する反乱というのが起こったんですね。それまでは子供と大人しかなかったから反乱っていうのはあり得なかったんですよ。
(赤江珠緒)あ〜〜そうか、うん。
若者という層が出来て大人に反乱する
(町山智浩)それが全世界で同時発生するんですね、若者達の反乱が。で日本でその反乱を最初に書いたのが1955年の石原慎太郎さんの『太陽の季節』なんですよ。
(赤江珠緒)は〜!
(町山智浩)亡くなりましたけど。あれが、世の中のそれまでのその色んなルールとか、年功序列であったり礼儀とか、そういった物を全部無視する若者、何もかもをメチャクチャにブチ壊していく若者を描いたんですね。
(赤江珠緒)だから日本でもあんなに刺さる人達が多い映画だったんですね。
(町山智浩)それが『太陽の季節』で、太陽族って言われたんですけど、その1955年というのはものすごく全世界の大きな革命のポイントでですね、アメリカではロックンロールが生まれるんです、そこで。ロックンロールっていうのはそれまでのジャズって言う大人の音楽。か、子供の童謡みたいなのしかなかった所に若者の音楽っていうのをブチ込んだんですね。車でぶっ飛ばしてバカ野郎!とか、あの子が欲しいぜっていう歌がそこで初めて生まれて、ロックンロールが。で、ジェームズ・ディーンが出てきたんですよ。1955年に。
(赤江珠緒)あぁジェームズ・ディーン!はい。
(町山智浩)で、『理由なき反抗』で、まさに理由なき反抗でなんかムカムカして、もうイラつくぜ!って言う。で、もうなんて言うか俺は大人でもないし子供でもないし、なんなんだって言うね。それがまさに『理由なき反抗』と言う映画になって。でリーゼントで出てきたんですね、リーゼントヘアーで。これ、同時なんです。
(赤江珠緒)そうか!じゃぁちょっと人類に余裕が出てきて、そういうのが生まれたと?
(町山智浩)そうそう。間が生まれちゃったんですよ。ある程度のお金はあるんだけれども、社会には参加できない若者という概念が出てきたんですよ。で、これで全世界で不良達が暴れたりして。あとやっぱりそういった人達のファッションを『ウエスト・サイド物語』は一種、商品化したんですね。要するにジーパン履いて、リーゼントでって言う。でTシャツを着てって言うね。ちなみにTシャツって言うのもこの頃初めて、下着じゃなくてくファッションとして着るようになったんですよ。
(山里亮太)ええーっ!
若者革命で、若者文化、若者ファッションと言うのが生まれた
(町山智浩)それまでは下着だったんですよ。Tシャツは。で、そういう大変な若者革命で、若者文化、若者ファッションと言うのが生まれたのがこの時で。で、それを初めて大々的に商品化したのが『ウエスト・サイド物語』だったんですね。石原慎太郎さんと、ジェームズ・ディーンもそうなんですが。ロックンロールもそうですが。全部同時で。で、もう1つ、すごく大きかったのは、ラテン系の文化をこのハリウッド映画、アメリカのメインの文化で初めてドンと出したのが『ウエスト・サイド物語』なんですよ。で、アメリカは白人と黒人しか殆どドラマとかには出てこなかったんですね。ところが実際はプエルトリコ系とかメキシコ系とか、キューバ系の人はアメリカには一杯住んでるのに、そういう人は基本的に出てこないんですよ。映画とかに。それまでは。ここで、この『ウエスト・サイド物語』はプエルトリコ系の若者達の生活を初めてちゃんと描いて。で、彼らの音楽を取り込んだんですよ。
(赤江珠緒)ふーん!
プエルトリコ系の若者達の生活を初めてちゃんと描き彼らの音楽を取り込んだ
(町山智浩)それまでのアメリカ映画の音楽と違うラテンミュージックをそのミュージカルの中に取り込んだんですね。だからこの中ではサルサとかマンボとかそういったリズムが出てくるんですよ。で、もう1つはそのプエルトリコ系の人達というのはアメリカのそれまでの映画には殆ど、黒人、白人、せいぜい出てきて先住民?ねぇ。だった訳ですけども、実はいるのでね。で、プエルトリコ系の人達というのは・・プエルトリコというのは元々スペイン領だったんですよ、カリブ海にある島で。で、それを米西戦争というのでアメリカが無理やりふんだくったんですけど。ふんだくった後何もしなかったんですよプエルトリコに対して。経済的に発展させる事もなかったし、彼らを要するにアメリカの国の中に政治的に参加させる事もなかったんですよ。だからまぁひどい扱いを受けたんですね。経済的にも政治的にも完全にほっぽかれて。で、仕事がないからアメリカに来てね、出稼ぎをしたり、アメリカで暮らすようになった人達がいっぱいいて、それがどんどん増えてきて。で、その人達の文化を描いたのがこの映画で『ウエスト・サイド・ストーリー』で。特に、そのウエスト・サイドと言う所にはいっぱいそういう人達が住んでたんですよ。今も住んでますけど。(笑)で、その人達はこの歌、『America』という歌が今うしろでかかってますけど。
(町山智浩)アメリカに侵略されて、それでアメリカで暮らしてるんだけども、ものすごい差別の中で大変だって事を歌ってるんですね。
(赤江珠緒)すごい朗らかになんか。(笑)歌ってるイメージですけど、そういう事を?
(町山智浩)これは、男の人達と女の人達が掛け合いをしてるんですけど、男の人達は「こんな差別ばっかりで一生懸命働いて何もいい事がないからプエルトリコに帰ろうぜ!」って言ってるんですよ。
(赤江珠緒)wwwイメージが全然違っちゃった。そうですか!
(町山智浩)そう。全然違うんです。これは女性の方は「でもアメリカにはチャンスがあるんだ。」と。「私はアメリカにいて、一生懸命頑張ってチャンスを掴みたい!」って歌ってるんですよ。で、男と女のバトルの歌なんですね、これ。で、この歌で『America』で「私アメリカで頑張るわ」って歌ってる女優さんがリタ・モレノさんっていう人なんですけども。この人は、初めてハリウッド映画で主役級の役をやったプエルトリコ系の女性なんですよ。で、これでアカデミー助演女優賞を取りまして、プエルトリコ系女性で初めての受賞となりましたね。これもハリウッドでは画期的だったんですよ。アカデミー賞っていうのは取るのは基本的に白人だったから。
(赤江珠緒)うんうん。
(町山智浩)それでもすごく画期的で、プエルトリコ系の人を実際に主役級で出すって事自体がもう画期的だったので。
(赤江珠緒)お〜そうですか。
(町山智浩)もう本当、あらゆる意味で画期的な映画がこの『ウエスト・サイド物語』なんですね。
(赤江珠緒)うん。でもそうなると、なぜ今?って言うね。
(山里亮太)うん!
なぜ今、ウエスト・サイド物語をリメイクしたのか
(町山智浩)そう!そこにポイントがあって、これね。ジェッツというのはプレトルコ系の人達をいじめている不良集団の白人達なんですよ。ところがその彼らもただの白人ではないんですよ。お坊ちゃんじゃないんですよ。貧乏なんです。
(赤江珠緒)あぁそうか。
(町山智浩)そう。で今かかってる曲が『Officer Krupke』っていう曲なんですけども。
(町山智浩)これね、白人のその男の子達が警察に捕まってその警察官に、お前らなんでこんな悪い事ばっかりしてグレて暴力ばっかりふるってるんだ?って言われて、言い訳をする歌なんですね。これは、貧乏だし一生懸命働いても何もいい事ないし。って言うんで、それで家はムチャクチャだしと。という事を愚痴っている歌なんですけども、彼らは白人だけれども、ポーランド系なんですよ。ポーランド系って言うのは、白人の中で差別されてるんですよ。
(赤江珠緒)あっ、白人の中でもマイノリティーなんだ。
(町山智浩)マイノリティーだし、労働者階級の人が多かったんですね。で、その1950年代にはすごくアメリカは経済的にものすごい発展するんですけれども、その中でやっぱり、教育のない人達は置いてきぼりにされちゃってるんですよ。白人労働者で、その経済的な発展から置いてきぼりにされた白人達が、そのプエルトリコ系に対して暴力をふるうっていう話なんですよ、『ウエスト・サイド・ストーリー』って。
(赤江珠緒)そっか・・。
(町山智浩)だから今、作る事にしたんですよ。スピルバーグは。
(山里亮太)あっ!
だから今作る事にした
(町山智浩)今も変わってねーじゃねぇかって事なんです。特にそのトランプ政権になってから、白人労働者の人達がネオナチみたいな事をしてね、黒人に対する暴力をふるったりしている状況があるので、スピルバーグは、60年前にこの映画で描かれた分断というのが現在どこまで解消されているのかと、言う事でこの映画を作ろうとしたとインタビューで答えてますね。
(赤江珠緒)あぁそういう事ですか。
(町山智浩)これね、警察さんのクラプキって言うのもポーランド系なんですけれども、このハリウッド映画で画期的だったのは、ポーランド系という白人達がいて労働者として苦労してるんだって事を言ったのも初めてなんですよ。ハリウッド映画では。この頃ね、『欲望という名の電車』っていう映画の中で、コワルスキーというキャラクターが出てきて彼もポーランド系なんですけども。ポーランド系という人がいて。白人っていうのは全部白人で、アメリカ白人は1つと言う訳ではなくて、アイルランド系がいて、イタリア系がいて、ポーランド系がいて、チェコ系がいて、ロシア系がいてって事は、なかった事にされてたんですよ。ハリウッド映画で。でもそうじゃなくて、それぞれにあって、それぞれ差別があって、って言う事を初めて描くようになったんですね、ハリウッド映画で。これは画期的だったんですよ、そういう点で。
(赤江珠緒)うん。
(町山智浩)で、そこまで徹底的にリアルにやるって事で、それまでのハリウッドミュージカルっていうのは全部ハリウッドのスタジオで撮ってたんですよ。撮影するのをね。例えば、『パリのアメリカ人』っていう映画はパリが舞台のように思えるんですけど、ハリウッドのスタジオで撮っててパリ行ってないんですよ。ミュージカル映画で。
(山里亮太)へーえ!
(町山智浩)で『踊るニューヨーク』っていう映画は、『踊るニューヨーク』という映画にも関わらず、ニューヨークでロケしてないんですよ。
(赤江珠緒)えっ。あ、そうなの?(笑)ニューヨークに行きそうな感じだけど、そうですか。
(町山智浩)ユニバーサルスタジオにニューヨークのすごいセットがあるので大抵そこで撮ってるんですよ。
(赤江珠緒)あーーなるほど。
(町山智浩)でも、それじゃダメなんだと。それじゃキレイキレイな作り物でしかないんだという事で、『ウエスト・サイド物語』のロバート・ワイズ監督は本当にニューヨークの下町のウエスト・サイドで撮影するというリアリズムを実現したんですね。本当にもう、なんて言うか荒廃した所。荒れ果てた、ニューヨークというものを出したんですけども、それはハリウッド映画はキレイキレイだったんで、非常にこの殺伐とした街の現実というものを見せるっていうのもすごい画期的だったんですよ。そういう意味で、ものすごく画期的なんですが、じゃぁ完璧じゃないの『ウエスト・サイド物語』はって思うんですけど、それに対してスピルバーグは「いや、でもリメイクすると思ったのは、まだ完璧じゃない部分があったんですよ。
(赤江珠緒)うんうん。ありました!?
ウエスト・サイド物語の完璧じゃない部分
(町山智浩)ありました!プエルトリコ系の人達を、プエルトリコ系のリーダーをジョージ・チャキリスっていうギリシャ系の人が演じてるんですね。『ウエスト・サイド物語』は。で、リーダーの妹のヒロインのマリアは、ナタリー・ウッドというロシア系の人が演じてるんですよ。でロシア系で色白いから、顔黒く塗ってるんですよプエルトリコ系に見えるように。
(赤江珠緒)えー!!
(町山智浩)そう。だから、これはダメだと。要するにプエルトリコ系の人達を完全な主役にする事ができなかったので1歩引いちゃったんですね。1961年なんで。だから、スピルバーグは今回、本物のラテン系の人達を配役するという事で、マリアちゃん役はレイチェル・ゼグラーさんという本当のコロンビア系の女性ですね、中南米系の女性で。で、ベルナルドというシャークスのリーダーも、デビッド・アルバレスっていうラテン系の人を本当にキャスティングしてるんですよ。で、まぁ面白いのはそのアンセル・エルゴート扮するトミーっていう白人の方の、そのロミオの役の人はね、プエルトリコ系の人達からね、「あのポーランド野郎がよ」とか言われてるんですけど、このマリアちゃんを演じるレイチェル・ゼグラーちゃんはお父さんがポーランド人なんですけどね。(笑)
(赤江珠緒)あっ、そうなんだ。(笑)
(町山智浩)そこもまたおかしいんですけど。で、まだもう1つ完璧じゃないっていう所があって、前の映画では、そのナタリー・ウッドと、リチャード・ベイマーっていうロミオとジュリエットの役をやる、そのトニーとマリアの役の人達は歌が歌えなかったんですよ。
(赤江珠緒)んーー!!
(町山智浩)で、今回はこの主役のアンセル・エルゴート君とレイチェル・ゼグラーちゃんは本当に歌えて。今『Tonight』がかかっているかな?
(町山智浩)これ本当の彼らの声なんですね。
(赤江珠緒)へー!声がまた素敵ですね。わぁ。
(町山智浩)これねまた撮影がすごくてですね。昔のミュージカルっていうのは先に、本人達が歌ってたとしても、本人達が先に録音しておいて、それに合わせて口パクをしてるんですね。昔のミュージカルは。これは現場で撮影中に本当に歌ってるのを同録してるんですよ。で、『レ・ミゼラブル』がその技術を開発したんで、その方式で録ってますね。
(赤江珠緒)あ〜〜そうですか!
(町山智浩)で、もう1つすごいのは、前作で、1961年版でアカデミー助演女優賞を取ったリタ・モレノさんが今回も出ています。はい。90歳ですよ。
(赤江珠緒)えっ!90歳!?
(町山智浩)90歳ですよ!90歳で『Somewhere』っていう歌を歌うんですよ。で、彼女はプエルトリコ系で初めてアカデミー賞を取っただけじゃなくて、この中では、プエルトリコ系なんだけれども、白人と結婚したという要するにこのマリアとトニーの元になるような人の役を演じてますね。ここで歌う『Somewhere』っていう歌はですね、なんでみんな争いをするのかと。Somewhereだからどこかに、誰もが争わないような世界がいつ実現するのかしらっていう歌なんですよ。それを60年前に『ウエスト・サイド物語』出た、それでアカデミー賞を取ったリタ・モレノさんに90歳で歌わさているというね。
(赤江珠緒)これもちょっと配役がいいですね。
(町山智浩)はい。90の歌声ですよこれ。で彼女がこの歌で願うのは、いつかどこかにね、民族や人種やそういうのを超えた、人達の。平和な世界がいつ来るのかしらっていう歌なんですね。
(赤江珠緒)そうですか〜。
(町山智浩)というね、是非ね2本、『ウエスト・サイド物語』オリジナルの1961年版と、今回の『ウエスト・サイド・ストーリー』スピルバーグ版はぜひ両方を見て、比べて頂きたいなと思いますね。
(赤江珠緒)町山さんは改めてこのリメイク版ご覧になってどうだったんですか?
(町山智浩)これはね、難しいですね。どっちがいいかね。曲のね順番とか入れ違ってるんでね。どっちが効果的かっていうのもね、本当に何度も見て比べるといいと思いますね。
(赤江珠緒)あっなるほど。わかりました。『ウエスト・サイド・ストーリー』は日本では2月11日からの公開です。町山さん、ありがとうございました。
(山里亮太)ありしたーっ!
(町山智浩)どもでした!
※書き起こし終わり
○○に入る言葉のこたえ
⑥「Beat it!」は「出ていけ」という意味
⑦ウエスト・サイド物語は世界初?の不良少年ミュージカルだった